様々な分野で活かされるVR技術② ~医療~
— 2015年9月4日前回の記事でゲームや映像表現などのエンタメ・アミューズメント関連以外でもVR技術が広く活用されていることをお伝えしましたが、今回は医療の分野で活用されているVR技術をご紹介しましょう。
医療現場では80年代からVR技術の導入がはじまったそうです。VRと言っても実に色々な形で活用されており、CTやMRIで撮影された断面画像から3Dデータを作成し診察するといった一般的に広く知られたものから、作成した3Dデータを使いVRで手術シミュレーションを行なったり医学生の医療トレーニングに用いられています。最近では脳卒中などのリハビリなどにも応用されており、VR空間内の物体を掴んだり持ち上げるなどのトレーニングが脳機能の回復に非常に効果があるとのことで今後の脳疾患などの治療に大きな進歩をもたらすだろうと言われています。
特に近年注目されているのがVRを用いた心理療法です。
↑ 身近なものだと高所恐怖症の克服のためのVRシミュレーション。ほかに閉所恐怖症や対人恐怖症などにもVR体験を活かした認知行動療法が効果的であるとか。
アメリカ・サンディエゴにある『バーチャル・リアリティー・メディカル・センター』(VRMC)ではVRによる心理療法の研究を中心に行っており、中でも悲惨な事件や事故・戦争などの体験者が発症する心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対するVRを使用した疑似体験療法の研究が進んでいます。これは罹患者の心に残る状況が再現されたVRを体験させることで辛い記憶への抵抗感を少しずつ取り除いていき、原因となる記憶との向き合い方を指導する手法だそうです。疑似体験療法自体は昔からある治療法ですが人によっては状況が再現しづらく、行う際に時として難しい部分もあったようですが、昨今のVR技術の進化が治療法に飛躍的な発展をもたらし、より効果的な心理療法として認められつつあります。
↑ VRMCにおける戦争でPTSDを患ったアメリカ兵への治療の解説。
ほかに設備の面でもVR技術が利用されており、医療・福祉施設の機器の製造・販売メーカーのケアコムでは、“バーチャル病棟”を用いて病棟設計や自社製品の運用の提案などを行っています。また今年の8月からIT関連のサポートやシステムソリューションを行うTISの「VR内装体験システム」をバーチャル病棟に導入し、患者や施設利用者の目線で病棟設計、運用検討や確認ができるシミュレーションシステムの試行運用を開始しました。
VR技術が発展しゲームや映像など娯楽に用いられることが多くなった現在、VRの健康面への悪影響が指摘されることもちらほらあります。しかしVR技術が医療の現場で多くの人の役に立っているということを知ると、どんなものにも一長一短あり物事のいち側面だけを見てすぐ悪い印象を抱くのはあまり良くないなとあらためて思った週末の午後でした。